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面白い話は「〇〇量」が多い
人は、どんな話に引き付けられるでしょうか。面白い話が面白い理由はなんだと思いますか?話術で人々を魅了するには、外せない要素があります。
それは「情報量」です。
多彩な表現であらゆる側面を描写すれば、文章が立体的になり、ビジュアルが浮かんでくるのです。エピソードトークがショートムービーになり、スピーチが映画になります。だから聴衆は興味を持って聞いてくれます。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは自らの考えを群衆に伝えるためにあらゆる技術を使って雄弁に語りました。印刷技術やパワーポイントがない時代ですから、どのように話すかを徹底的に研究しました。
アリストテレス象
話すスキルを育むには論理と語彙を磨く必要がありますが、話の面白さを伸ばすには、特に、語彙の力が重要です。
言葉を装飾して話術を形成するその学問はレトリックと呼ばれ、日本語では修辞学と訳されます。単なる紀元前の文化ではなく、近代になってもスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションに使われていたり、欧米の教育に組み込まれていたりと、脈々と生き続けています。大勢を相手にする演説やプレゼンテーションだけの学問ではありません。1対多でも1対1でもコミュニケーションの本質は同じですから、私たちのビジネスや日常の会話をも、より興味深く変えてくれます。
レトリックは言葉を彩る
では今から、雑談の例を用いてレトリックの力を説明します。こんな会話があったとしましょう。
お聞きのとおり、パスタを作っただけの話です。知識のひけらかしも“おもろい”オチもありません。ただ、なぜか画が想像できますよね?ちょっとアラビアータを食べたくなってきませんか?使っているテクニックは言い換えです。
単語を繰り返さずに、言い換えて情報量を増やしているんです。分かりやすくするために言い換えなしの表現に改悪してみましょう。
先ほどと同じ話です。前者と後者、どっちのパスタの方が美味しそうでしょうか。
トマトとアラビアータと料理が2回ずつ出てきているので、情報が減ったのにお気づきでしょうか。トマトを「真っ赤に熟れた畑の太陽」と言えば、味の濃厚さや香りの主張を想起させるでしょう。
アラビアータを「イタリアンの王道」と言い表せば、イタリア人の食卓が想像でき、シチリア島の風が感じられるかもしれません。
料理を「キッチン時間」にすれば調理そのものを楽しむ姿が出てくると思います。
これが言い換えの力です。難しい語句は使用していません。言葉を言い換えながら話すだけで、情報が増えて脳内の映像を共有できるんです。技術が高まるほどに、体験がそのまま伝わるようになります。
そのほかにも、著名な例として、新鮮な海の幸が所狭しと乗った海鮮丼を目の当たりにして「海の宝石箱や〜」と言い換えるグルメレポーターをご存知でしょう。
エビを食べて「プリプリして美味しい」しか言えない有象無象から、彼が突出した存在になったのは言語化能力に優れていたからです。ポイントは言葉を知っている、ではなく、言葉を操れるというところにあります。
語彙はインプットだけでは増えません。確かに、多くの本を読む人の中には語彙が豊富な方がたくさんいます。ですが、「真っ赤に熟れた畑の太陽」も「海の宝石箱」も難しい単語ではありませんよね?
語彙はインプットの積み上げではなく、そこからのアウトプットによる横の広がりで増加します。
言い換えのコツ
これから説明する3つのコツを意識して言い換えを続ければ、日々の出力がスキルアップになり、言葉が磨かれます。シンプルですが、この領域に達している人は少ないので、すぐに周囲と差がつきます。では、3つの言い換えのコツを伝授します。
言い換えのコツは、
① 名詞から考える
② 両方向から想起可能
③ 詩的表現
です。この3つだけです。慣れるまでは言葉に詰まるかもしれませんが、次期に気持ち良く言葉が湧き出るようになります。一つずつ詳細を説明します。
① 名詞から考える
まずは一つ目、単語を言い換えるには名詞から考えるようにしましょう。単語を「〜な〇〇」と複数の言葉にして言い換える場合、“〇〇”に当てはまる名詞を先に決めます。トマトって「太陽」だ!と思いついたら、最後の名詞は太陽にして真っ赤に熟れた畑の、と修飾語をつけます。
海鮮丼も着眼点は「宝石箱」のように見えたところにあります。思考の順序が名詞、修飾語の順です。
これは英語の関係代名詞の考え方です。名詞をwhich以降の文章で修飾する文法です。
「昨日買った椅子」だったら、A chair which I got yesterday となります。Chairが先にきて、I got yesterdayと後から説明します。名詞を先に考えるから論理的になるのです。日本人に関係代名詞が苦手な人が多いのは、日本語とは正反対の構造だからです。
日本語は前から修飾します。「椅子、昨日買った」ではなく「昨日買った椅子」です。このくらい短ければ、前でも後ろでも分かりますが、「昨日妹と横浜の百貨店に行って偶然見つけて衝動買いした椅子」だと椅子に辿り着くまでが長くなります。
長ければ長くなるほどに、話者もよく分からなくなりますから、肝心要の最後の名詞を、「こと」とか「もの」とか「状況」「状態」「様子」などの伝わりにくい語句にしてしまうのです。
後に名詞が来るから、話しながら着地点を探して適当な名詞を選択してしまう。なので、日本語を英語の語順で思考して、頭に眠っている言葉を引っ張り出していきましょう。元の単語の要素を含む名詞を最初に探し出すのがコツの一つ目です。
② 両方向から想起可能
2つ目に必要条件でもありますが、両方向から想起可能になるように、思考を整理すれば、言葉が生まれやすくなります。AからBを、BからAと繋がる必要があります。
トマトが「真っ赤に熟れた畑の太陽」であるように、「真っ赤に熟れた畑の太陽」はトマトなのです。厳密に言えば、トマトには緑色や黄色もあり、熟れているとは限りません。ですが、アラビアータを語るこの文脈での「真っ赤に熟れた畑の太陽」はトマト以外に有り得ません。
「海の宝石箱」も、言葉だけでは、無数の鱗が輝く水族館の水槽も該当するでしょう。しかし、愛くるしい食いしん坊が目を丸くして言ったら、それは海鮮丼を指します。言い換えながら情報を補完していって、こちらの世界に引き込むのです。
健康マニアにとっての「散歩」は「心身を整える毎日の10,000歩」でしょうが、ラジオを聴きながら歩きたい人には「情報収集できる気分転換」でしょう。どちらも表現は違えど双方から同一のイメージに到達できるようになっています。AからBでBからA、この公式を頭に描くようにしましょう。
③ 詩的表現
最後に詩的表現を説明します。詩的、とはポエムのような表現を指します。機械的な説明ではなく、経験や心情を通したその人らしい言葉を使用します。
例えば、「花火大会」を言い換えるとして、そのものの意味を忠実になぞらえると「夜空を彩る無数の光」のようになりますが、詩的に言えば「爆音に消えた青い告白」や「打ち上げる間の急接近」のような甘酸っぱいカップルの夏祭りの描写もできます。
「夜食」をそのまま表すと「イレギュラーな深夜の食事」ですが「甘美で悦楽な背徳の味」と表現したら、途端に小説家になります。切り取る角度が違いますが、どちらもそれぞれ「花火大会」と「夜食」を言い換えています。
個人の主観が入ると何でもアリになると誤解されそうですが、両方から想起可能でないと破綻するので、上級者テクニックです。この詩的表現を使いこなすと話の面白さがレベルアップします。
名詞から考える、両方向から想起可能、詩的表現。この3つを意識して、同じ言葉を繰り返しそうになったときに言い換えをしてみてください。文章なら一通り書いた後に誤字脱字だけでなく重複表現をチェックしましょう。何度も出てくる単語を言い換える分だけ文章が磨かれていきます。
なぜなら、私たちは言葉から得た情報をもとに、頭の中で映像を再生するからです。豊富な語彙を用いて現像の手伝いをしてあげましょう。私は本来のプレゼンテーション講義の中でも、言い換えトレーニングを受講生に課しています。最初は頭を抱える人が多いですが、次第に秀逸な表現を繰り出すようになります。
それがプレゼンテーション、ひいてはコミュニケーションの能力を伸ばします。話す学習はハードルが高いようで、実は楽しみながら勉強できるので苦になりません。様々な表現を模索する作業は面白く、仲間の上手い言い回しには思わず声が出ます。だから継続でき、成長するのです。
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